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◆ 健康・統合医療(1) ◆
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近年「統合医療」という言葉がメディアに登場するようになった。これまでの医療は西洋医学的な治療法に傾いていたが、西洋医学以外の相補(そうほ)・代替医療(※)を再評価し、両方を用いて治療しようという考え方が世界で広がってきた。
なぜ統合医療が必要なのか。「西洋医学では、臓器、組織、細胞とより細かく分析され、その中で高度な研究が進んできた。だが、がんやエイズなどの難病はまだ完全に理解されていない。また、西洋医学は統計学的視点から考える医療だが、実際の臨床では例外も多い。例えばヘビースモーカーは肺がんになりやすい。でも非喫煙者でも肺がんになるし、ヘビースモーカーで肺がんにならない人もいる。そこで人間をパーツではなく、全人的に見る医療へと変わってきたのです」と日本統合医療学会の渥美和彦理事長は言う。
つまり、「体にできた疾患を治癒し障害を取り除くだけでなく、『患者の満足感や生きがい、死生観を含めて包括的に医療を考える患者中心の医療』という考え方が生まれてきたのです」と渥美理事長は話す。
(医療ライター・福原 麻希)
※漢方や鍼(はり)や指圧、マッサージ、ハーブ医学、食事療法、チベット医学など
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◆ 健康・統合医療(2) ◆
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統合医療とは西洋医学を主流としながら「伝統医学(中医学、漢方や鍼(はり)や指圧、マッサージなど)」「相補(そうほ)・代替医療(自然療法、アロマセラピー、ハーブ療法など)」からも治療法を選択。どちらも利用するという医療の形だ。90年代、米国アリゾナ大学ワイル博士が提唱した。近年、世界にその動きが伝わっている。
例えば
▼米国 国立健康研究所付設の相補・代替医療センターの調査によると、国内の相補・代替医療の利用率が90年の33・8%→97年には42・1%に上昇した。利用者は教育レベルの高い人や高収入者が多い。 ▼英国 チャールズ皇太子の支援のもとに、国が相補・代替医療に取り組んでいる。特に、ホメオパシー(疾患に似た作用を起こす超微量の植物・鉱物などの毒薬を投薬する治療法)は王立の専門病院や研究機関がある。ホメオパシーや手かざし療法は医療保険適応になっている。
その他、英・独・仏・露などでも浸透しているが、日本は昔から漢方や鍼があったにもかかわらず、統合医療後進国だ。「日本人は西洋医学以外の治療法があることをもっと知るべき」と日本統合医療学会の渥美和彦理事長。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(3) ◆
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統合医療とは西洋医学を主流としながら、「伝統医学」や「相補(そうほ)・代替医療」(CAM=Complementary Alternative Medicine)の中からも治療法を選び利用する医療の形。
伝統医学には▽鍼灸▽漢方▽カイロプラクティック▽マッサージ・指圧・リフレクソロジー▽中医学▽アーユルヴェーダなど、CAMには▽ヨガ▽瞑想▽イメージ療法▽バイオフィードバック▽自然療法▽アロマセラピー▽ハーブ療法▽音楽療法など、両方で7分類60程度の治療法がある。
「伝統医学やCAMは長い歴史があり、うまくいかないものは淘汰されてきた。痛みやつらさなどに対して手術や薬ではなく、自然治癒力を引き出すことを重視する療法」と日本統合医療学会の渥美和彦理事長。
欧米では伝統医学やCAMが医療制度に組み込まれている。「例えば、米国は医療格差が大きく、消費者運動として広がった。一方、日本は国民皆保険で西洋医学しか受けてこなかったんです。が、科学中心の西洋医学が限界にきて医療が見直され視野が広がってきた。さらに、治療から予防の時代がきました」と渥美理事長。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(4) ◆
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国内でも統合医療を推し進める動きが広がってきた。03年6月には国内初の統合医療専門施設として、東京女子医科大学附属青山自然医療研究所(東京都港区)が開設した。西洋医学の専門家が伝統医学やCAMも取り入れて治療している。
受診者は0~85歳まで幅広く、男性の平均年齢は55歳、女性49歳。受診理由は男女とも▽1位=悪性腫瘍に対する治療の相談▽2位=うつやストレスコントロールなど精神的な問題、その他には▽腰や膝、肩こりなどの痛み▽慢性疲労▽更年期障害▽パーキンソン病など。
だが、同クリニックの川嶋朗所長は「本当は糖尿病や高脂血症などの生活習慣病の相談に利用してほしい」と言う。「統合医療クリニックには、いろいろなカード(治療法の種類)がある。それを利用しながら、自分の健康を維持してほしい。提供する医療ではなく、自分の体、生活、環境見直しのサポートをする医療」と川嶋朗所長。
女性は月経、出産、更年期と自分の体に目を向けやすいが、男性は病気になって困ってから飛び込んでくるケースが多い。もっと早く健康を見直して、ピンピン長寿を目指したい。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(5) ◆
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統合医療は西洋医学のみならず「伝統医学」や「相補(そうほ)・代替医療」の中からも治療法を選ぶ医療。
国内初の専門施設・東京女子医科大学付属青山自然医療研究所クリニック(東京都港区)では、西洋医学の専門家が統合医療を取り入れている。例えば、会社員のAさん(52)は健診で食後血糖値が212ミリグラムデシリットル、糖尿病と診断された。最初は食事療法を試みたがうまくいかず、同クリニックへ。
川嶋朗所長は初診に1時間かけて(受診料金30分=1万円)、こんなやりとりをする。
(1)どうして糖尿病になったと思うか、生活を見直す (2)人生で一番大切にしていることは何か。仕事か、名誉か、家族か、健康か考える (3)糖尿病の説明。日本人の体の特徴と食事のポイント (4)医療費の予算を考えて見合う補助療法を考える。
糖尿病の場合は▽サプリメント▽漢方▽温熱療法▽アロマセラピー▽ホメオパシーなどがある。
「治療では、まず自然治癒力を妨げる原因を考え、意識改革を促します。目標は病気のコントロールではなく治癒です。このほか、健康増進と病気の予防はもっと重要です」と川嶋所長は話す。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(6) ◆
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統合医療は、1997年から米国で始まったが、日本でも導入される施設が多くなった。
2003年に開設した統合医療ビレッジ(東京都・四谷)には、2階=保険診療の内科クリニック、3階=がんの免疫療法クリニック、4階=相補(そうほ)・代替医療中心のクリニックと、医療施設が集まる。2階で診察や検査を受けたあと、医師と相談し、自分の希望、予算に見合った治療を各クリニックで受けることができる。
「統合医療では一人の患者さんに対して、医師やセラピストが多角的な情報を共有し、ディスカッションをしながら治療法を見つけます。情報の共有やディスカッションが欠けてしまうと、単なる医療の寄せ集めにすぎません」(同ビレッジの山本竜隆総院長)
例えば71歳の女性は6年前から、めまいに悩まされていた。健康診断、耳鼻科、神経内科、脳外科でも診てもらったが異常なし。山本医師が東洋医学的に診たところ、風痰上擾証(ふうたんじょうゆうしょう=ストレスなどによって気の巡りが悪くなって滞っている状態)だったため、漢方薬と鍼灸、イチョウ葉エキスで治療したら2カ月でめまいはほぼ改善した。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(7) ◆
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統合医療は、西洋医学のように人間を臓器別に考えるのではなく、全人的に診て評価するのが特徴だ。
例えば、A子さん(64)は40代後半から風邪をひきやすく、ぼうこう炎をくり返していた。足の冷えや肩こり、のぼせにも悩まされ、更年期障害を疑って検査を受けたが異常なし。内科や整形外科も受診したが、原因不明だった。さらに、6年前からは血圧が上昇し、高コレステロール血症も指摘され、それぞれの薬を飲んでいた。気付いたら1日の服用薬が20種類を超えた。
統合医療ビレッジ(東京都・四谷)で西洋医学的な診察と検査を受け、さらに東洋医学的に体を診てもらったところ、気血両虚症(体がだるくて疲れやすい虚弱な状態)だったため、山本竜隆総院長は漢方薬の人参養栄湯(にんじんようえいとう)を選んだ。風邪やぼうこう炎の予防にはエノキダケ抽出エキス、高コレステロール血症には紅麹、肩こりや腰痛、冷えには鍼灸を紹介した。
「薬は降圧剤1種類だけをのみ続けた結果、3、4カ月目には意欲低下、肩こり、腰痛、冷えが改善し、風邪もひきにくくなったそうです」と同ビレッジの山本総院長は話す。
(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(8) ◆
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仕事や家庭、恋愛、金銭など複数のストレスが積み重なると、いろいろな症状が出る。胃の痛み、下痢や便秘、不整脈、血糖値の上昇、片頭痛、肩こり、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症…。こんなときは「統合医療」を試してみるとよい。統合医療は“心がもたらす症状”の改善も得意だ。
例えば、会社員Mさん(46)は、半年前から仕事中に動悸(どうき)を感じるようになった。急に脈が早く強くなり、めまいや疲労感に襲われる。循環器科で診察を受け、ホルター(24時間)心電図による検査を受けたが、異常なし。ナチュラル心療内科クリニック(神戸市)で竹林直紀院長のカウンセリングを受けたところ、かなりストレスを受けていることが分かった。
そこで、竹林院長はストレスのセルフコントロール方法として、毎回、呼吸法(ストレス反応を起こりにくくする予防的な方法)や自律神経訓練法(心身をリラックスさせるための自己暗示法)、アロマセラピー、瞑想(めいそう)などを指導した。
Mさんは心の持ち方、ライフスタイルを改善した結果、体の症状をコントロールできるようになったという。
(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(9) ◆
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これまで西洋医学的な治療法に傾いていた日本の医療。しかし、近年「代替医療」や「伝統医学」を再評価し、“いろいろな視点から心と体を診る”考え方が広がっている。その代表例は「漢方」。漢方は中国伝統医学の1つで、5~6世紀ごろ日本に伝わった。
「江戸時代、日本の医学の中心は漢方でした。が、蘭学の影響を強く受けたことから、明治政府は西欧医学だけを医師免許制度に取り入れたため、漢方医学は衰退へ。ところが、1960年代から欧米で漢方(kanpo)に注目が集まり始めたのです」(北里研究所東洋医学総合研究所・花輪壽彦所長)
国内でも76年に漢方薬が保険適用になり、診療で使われ始めた。04年からは大学医学部の総てで漢方が必修科目に。「漢方はうさん臭いというイメージを持たれがちだったのは、医学教育がなされていなかったからです」と花輪所長。
漢方で用いる薬は数種類の生薬(しょうやく)を組み合わせて作られる。生薬とは植物、動物、鉱物などを加熱し乾燥させたもので300種類以上。古代から効果のあった組み合わせだけが残り、代表的な薬には「葛根湯」などと名前が付けられた。
(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(10) ◆
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統合医療では西洋医学を主流としながら、さらに代替療法や伝統医学を組み合わせて体を診る。中でも漢方薬によって症状を改善する例は多い。
「漢方薬は病気の名前ではなく、症状を訴える各人に対して処方します。その診断には、各人に病気をはね返す力がどのくらいあるか、という漢方独特の“ものさし”(見方)が使われます」(北里研究所東洋医学総合研究所・花輪壽彦所長)。その“ものさし”は3種類。
(1)虚実(きょじつ)=体の抵抗力が強いか、弱いか。 ▽虚証=体の抵抗力が弱い▽実証=体の抵抗力が強い。
(2)気血水=気は「元気」「病気」の気で体内のエネルギー循環を示す。血は血液とほぼ同じ意味。血液循環を示す。水は尿や唾液(だえき)など。それぞれの体内循環の良しあしを診る。
(3)五臓 ▽心臓=循環器系や心の働き▽肺臓=呼吸器系や皮膚の働きなど ▽肝臓=自律神経系の働きなど ▽脾(ひ)臓=消化器系▽腎臓=生殖器系、泌尿器系、内分泌系機能などをそれぞれ示し、各臓器で異常が起こっているかどうか診る。
医師は患者の手足の脈、おなかなどを五感で探りながら漢方薬を処方する。
(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(11) ◆
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漢方薬には、頓服(とんぷく=具合が悪い時だけのむ薬)と体質改善の2タイプがある。頓服の代表例は「葛根湯」。風邪で体がゾクゾクするときにのむとすぐ温まる。体質改善の代表例はアトピー性皮膚炎やぜんそく、がんなど。北里研究所東洋医学総合研究所の花輪壽彦所長はこんな例を紹介する。
当時小6のA君は湿疹やぜんそくに悩まされていた。ある日、風邪をきっかけにぜんそく症状が悪化し、夜も眠れないほどひどくなった。花輪所長が東洋医学的な診断(1日の記事参照)をした上で、漢方薬の「麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)」を処方したところ、1~2日後に息苦しさとせきが消失した。
さらに、ぜんそく症状が起こらないような体質改善を目指した。A君の腹部には張りが見られ、舌の表面が白っぽくなっていた。花輪所長は自律神経系と消化器系のバランスが崩れていると診断し「柴朴湯(さいぼくとう)」を処方したところ、2年目にはすっかりぜんそく症状がなくなった。
「体質改善には時間がかかるため、漢方薬を早くのみ始めることを勧めます。たいてい3年続けて飲んでいれば、体調のよさが自覚できます」と花輪所長。
(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(12) ◆
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漢方薬は加齢に伴う症状や不定愁訴にもよい効果をもたらす。北里研究所東洋医学総合研究所の花輪壽彦所長はこんな例を紹介してくれた。
B男さん(62)は、45歳を過ぎた頃から疲れを強く感じるようになった。パソコンに向かっていたら、目がショボショボ。長く座っていると腰痛。肩こりもひどい。さらに2年前からは夜間、トイレに行くことが多くなった。病院で診てもらったら、「軽度の前立腺肥大症」と診断された。
花輪所長が東洋医学的に診察したところ、上腹部に比べて下腹部に緊張がない虚証(きょしょう=体に抵抗力がない)だった。腎虚(老化が他の人より早く進んでいる)と判断し、漢方薬の八味地黄丸(はちみじおうがん)を飲むように勧めた。Bさんは飲み始めて3カ月目から体の調子がよくなり、疲れをあまり感じなくなった。夜のトイレの回数もほとんどなくなった。
とはいえ、前立腺肥大症で悩む人がみな八味地黄丸で効果が期待できるわけではない。「漢方は病名ごとに処方が決まるわけではありません。たとえ薬局で買う場合でも、薬剤師に相談してください」と花輪所長。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(13) ◆
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統合医療は「西洋医学と伝統医学」または「西洋医学と相補(そうほ)・代替医療」を組み合わせた視点から体と心の治療法を選ぶ。伝統医学の中でも、鍼灸(しんきゅう)は疾患の適応範囲が広いのでよく用いられる。
日本では戦後から肩こりや腰痛、関節の痛みなど、主に疼痛に対して鍼(はり)や灸(きゅう)が使われてきた。が、欧米では運動器(整形外科領域)以外の症状でも広く行われ、1990年代以降、EBM(科学的根拠)のある研究が報告されている。例えば米国では97年にNIH(国立衛生研究所)の会議で、特に「手術後やがんの化学療法による吐き気や嘔吐(おうと)、歯科の術後の痛みに、鍼灸は有効である」と発表された。
さらに、EBMのあるデータは少ないが、 ▼薬物中毒 ▼脳卒中後のリハビリ ▼頭痛 ▼月経痛 ▼ベル麻痺 ▼関節リウマチ ▼ぜんそく ▼アレルギー性鼻炎 など37疾患にも有効の可能性ありとした。
「鍼や灸は皮膚表面に刺激を与えることで、体と心のバランスを正常に戻し、自然治癒力を上げます。更年期障害、妊娠分娩時の産科疾患、泌尿器疾患、アレルギー疾患、自律神経失調症などの症状も改善します」と筑波技術大学鍼灸学専攻の形井秀一教授。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(14) ◆
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鍼灸(しんきゅう)を初体験した。私の場合は慢性肩こりと腰痛。背中のツボにはモグサ(乾燥させたヨモギの葉裏の毛を集めたもの)による温灸、肩には鍼(はり)で刺激を与えてもらった。すると体全体がポカポカと温かくなり、強い眠気に襲われた。施術後は1日中、全身に疲れを感じ、ゆっくり休んだ。
「鍼の機械的な刺激、灸の熱刺激で自律神経の副交感神経が優位に働いて、血液の循環がよくなり、全身にリラクゼーション効果が表れたのです。また、体に刺激を与えることで、脳中枢からβ-エンドロフィンやエンケファリンなどのホルモン、神経伝達物質が多量に分泌され腰痛などの痛みを抑制します」(筑波技術大学鍼灸学専攻・形井秀一教授)
鍼治療では直径0・16~0・20ミリの鍼を用いる。髪の毛くらいの細さで、刺された感覚はほとんどない。刺激が大きいと、体が防御反応を示して緊張してしまう。
「患者の体調に合わせて治療部位、鍼や灸の道具の種類、刺す回数、刺激をどのように与えるかなどを鍼理論と術者の経験で決めます」と形井教授。おもに、体のコリや痛みが強くて熱感がある場合は鍼、体が弱っていたり冷えていたりする場合は灸を用いる。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(15) ◆
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鍼灸は中国の伝統医学の1つ。近年の日本で鍼灸を利用している人は6~7%しかいないと報告されているが、欧米ではEBM(科学的根拠)のある論文が多数、発表されている。
筑波技術大学鍼灸学専攻の形井秀一教授は月経痛、不妊症、更年期障害、つわり、妊娠・分娩などに対する鍼灸療法を研究している。妊娠時の「逆子(さかご)」も鍼灸で改善する。
主婦のA子さん(31)も妊娠28週目の診察で、胎児が逆子と診断された。医師の勧める「逆子体操」をしたが、32週目になっても効果なし。そこで、形井教授の鍼灸外来へ。形井教授は足の内側のくるぶしから6~7センチ上方のツボ(三陰交・さんいんこう)に鍼を刺してその頭に灸をした。さらに、足小指の爪の付け根のツボ(至陰・しいん)にも灸を置いた。
週2回の外来のほか、毎日、自宅でも灸をしたところ、2週目が終わった頃、胎児が回転した。「鍼灸の刺激によって血流がよくなり、子宮がやわらかくなって胎児が大きく動くと考えられています」と形井教授。33週目までに治療を始めると6~7割に効果が見られるが、34週目以降は改善率が低くなる。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(16) ◆
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40代男性に多い「慢性前立腺炎」。頻尿、排尿痛、下腹部痛、会陰部(生殖器と肛門の間)の痛みや不快感に悩まされ、薬物治療では効果がないことも多い。
B夫さん(46)も排尿のたびに不快な症状が出るので、泌尿器科で診てもらった。前立腺は細菌によって炎症を起こすことが多いが、B夫さんからは細菌が検出されず、「非細菌性前立腺炎」と診断された。潜在性の細菌が原因の可能性もあるので、最初は抗菌剤(クラビット)を処方されたが改善しないので、医師は抗炎症薬(セルニルトン)に変えたが、やはり効果なかった。そこで、B夫さんは筑波技術大学鍼灸学専攻の形井秀一教授の治療を受けた。
形井教授が腹部と腰・臀部のツボに鍼治療をしたところ、初回から症状は半減し、毎週、通院していたら10週目には症状がほぼ消失した。「前立腺は体の中で一番血流の悪い部位で、薬が届きにくい。体の経穴(けいけつ=ツボ)に鍼で刺激を与えると、脊髄(せきずい)を介してそれぞれのツボとつながりのある臓器に影響をもたらします。B夫さんの場合は、骨盤内の血液循環が改善されたので症状がなくなりました」と形井教授は説明する。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(17) ◆
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統合医療として、西洋医学に組み合わせる相補(そうほ)・代替医療の1つに「マッサージ」がある。毎日、パソコン画面を見ながら原稿を書くので、私は慢性の肩こりと腰痛、緊張性頭痛に悩まされ、月2、3回はマッサージに駆け込む。
「長時間同じ姿勢で作業をしていると、筋肉が緊張し血流が悪くなります。筋肉は伸ばしたり縮めたりすることで血液循環がよくなるからです。筋肉に疲労物質がたまると痛みにつながり、肩こりや腰痛、頭痛を引き起こします」と筑波技術大学保健科学部の野口栄太郎教授は説明する。
そんな場合、皮膚表面にマッサージ刺激を受けるといろいろな効果がもたらされる。 (1)刺激を受けた部分では神経伝達物質が分泌され、末梢血管が拡張される (2)筋肉が収縮されることで静脈血が押し戻され、酸素と栄養素を含んだ動脈血が入るので、筋肉全体の血液循環がよくなり疲労物質が燃焼したり排泄されたりする (3)皮膚表面から運動神経や感覚神経に刺激が伝わり、脳や脊髄を介して自律神経の興奮を抑制して体をリラックスさせたり、逆に神経を活発化させて元気をもたらしたりする。この結果、自然治癒力が高まる。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(18) ◆
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マッサージは古代文明とともにギリシャで始まった。日本には明治時代初期、陸軍軍医によって欧州の書物が翻訳され導入される。人体の解剖学をもとに、手足の末端から体幹部に向かって筋肉をもみほぐす。やがて、筋肉だけでなく、リンパの流れや血液循環にも沿って、皮膚をなでる、押す、もむ、たたく手技が広まった。
ところで、鍼灸(しんきゅう)とマッサージはどう使い分ければいいのか。「基本的には方法が違うだけで効果は同じです。患者さんの好みで選べますが、一般的に鍼(はり)は筋肉まで到達するので体への影響力は大きいですね。症状が軽度なときはマッサージで十分、期待する効果を得られるでしょう」と筑波技術大学保健科学部の野口栄太郎教授は言う。
マッサージは肩こり・腰痛・頭痛などを緩和させるほか、慢性の便秘や過敏性腸症候群(腹痛をともなう下痢や便秘をくり返し起こす)にも効果があり、自分でもできる。便秘のときは手のひらで時計回りに腸管を軽くなでて、腸の動きを促進させる。(1)へそを中心に小さい円(2)その周りに大きな円を描くようにするとよい。一方、下痢のときは腹部皮膚に強い刺激を与えると胃や腸の動きが抑制され改善する。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(19) ◆
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寒い季節になると、膝関節が冷えて痛みが出やすい。関節部が冷えると血管が収縮するので血液循環が悪くなり、痛みを伝える神経が影響を受ける。さらに、高齢になると、膝の関節部の軟骨が使い過ぎですり減り、炎症が起きやすくなる。
筑波技術大学保健科学部の野口栄太郎教授は、膝関節の痛みにマッサージがいい効果をもたらすと言う。「膝関節をやさしくなでると鎮痛作用をもたらします。さらに、太ももを握るようにしっかりもんで刺激を与えると血流がよくなり、膝の痛みも軽減します」
とはいえ、基本的には大腿部の筋肉が弱っているから、膝関節に痛みが出る。
「加齢によって膝関節の軟骨がすりへると、膝が不安定になります。そのとき筋肉を鍛えていると、膝関節が安定して痛みを起こしにくくなるからです。若い人は大腿部(太もも)の筋肉を運動によって鍛えることができますが、高齢者は思うように動かすことができません。そこでマッサージを受けることで同じ効果を狙っているわけです」と野口教授は言う。
最近は塾通いの小学生がマッサージを受けていると聞くが、「外でもっと遊んで来い」というわけだ。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(20) ◆
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マッサージを受けるとラクになるが、翌日“揉み返し”にあうことがある。体の筋肉の張りが強くなり、施術前より痛みが増す。どうしてか。
「マッサージでは患者さんの体格、皮膚表面を触ったときの痛みの感覚を聞きながら、刺激量を決めます。これが施術者の腕の見せどころです。が、刺激が強すぎると筋肉を過度に緊張させ、血管が収縮してしまいます。局所だけに刺激を与えることも揉み返しの原因になります」と筑波技術大学保健科学部の野口栄太郎教授は説明する。
施術を受ける時の理想は「心地よさ」。体の血液循環を改善して、筋肉の柔軟性を取り戻す。痛みを感じたら、遠慮なく申し出たほうがよい。
マッサージは一時的に血流を改善させるが、日常生活を変えなければ通い続けなければならない。「肩こりや腰痛はVDT(Visual Display Terminal)症候群(コンピューターやテレビゲーム画面を見続けることによる眼精疲労)の場合も多い。視力低下感、目がかすむなどのほか、頭痛やめまい、イライラ、抑うつも引き起こす。作。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(21) ◆
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インドの伝統医学にある「アーユルヴェーダ」という治療・健康法。国民の8割が利用しているとされ、WHO(世界保健機関)も健康増進、疾病予防の観点から推奨している。
「アーユルヴェーダは健康、長寿を得るための体系的理論、いわば“生き方の知恵”です。体、心、意識にアプローチして自然治癒力を引き出し、病気や未病(健康と病気の間。老化も病気に含む)を引き起こすアンバランスな状態を調整します」と富山県国際伝統医学センター・上馬塲(うえばば)和夫次長。
アーユルヴェーダでは、体や心には自然治癒を妨げる因子があるという。(1)肉体には未消化物や食べ過ぎた栄養(2)心には精神的なストレス、こだわり(3)意識には認識や記憶の誤り。それらを毒素と考え浄化(detoxification=デトックス)することで、本来の体が持つ力を発揮させる。
浄化療法で体と心をスッキリさせたあとは、意識を変革させ、健康的で自分の体質に合った起床時間、食事法、運動法を学ぶ。以前と同じような不健康な生活様式をくり返すと、細胞の老化や体の不調、精神的なストレスが再び蓄積するからだ。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(22) ◆
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統合医療では世界4大伝統医学も見直されている。その1つのインド伝統医学「アーユルヴェーダ」では、パンチャカルマ(浄化・鎮静療法)が中心。
「老廃物がたまると、細胞の代謝を阻害し早く老化させるので、それらを排せつさせるという概念です。施術では脈診で体質を判断し、個々に見合う複数の薬草を混ぜ合わせたオイルを用います」と富山県国際伝統医学センターの上馬塲(うえばば)和夫次長。施術には手順がある。
▼前処置=老廃物を出しやすくする (1)スパイス、薬草を取って消化を促進 (2)薬草入りオイルで体全体をマッサージしたりして老廃物を溶かし出す (3)蒸気浴や遠赤外線で発汗させる
▼中心処置=老廃物を排せつする (4)口と鼻からはくしゃみで、かん腸で大腸や小腸から、皮膚から瀉血(しゃけつ)によって(老廃物を含んだ血液を抜く)出す
▼後処置=体と心の鎮静化 (5)日常生活の注意 (6)体質に応じた食事指導。
95年に上馬塲次長らは男女20人に浄化療法を受けてもらい、何もしなかった12人と比較した。施術群は体重や血圧、動脈硬化の危険因子の指数が低下。体重は平均2・7キロ減少、中には7キロ減の女性もいた。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(23) ◆
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インドの伝統医学「アーユルヴェーダ」の浄化療法の1つに「シローダーラー」。額を中心にした頭部に39度前後のオイルを垂らしていくと、ストレスが消失、メンタルリラクゼーションをもたらす。“脳のマッサージ”ともいわれる。
私もハタイ・クリニック(東京都世田谷区)で体験した。脈診で体質を診断してもらい、オイル(太白ゴマ油)を20分間、額に流してもらった。施術中はうつらうつらして、終わった後はぐったり。でも、シャワーを浴びた後はすっきり、クリアな状態になった。体の中でどんな変化が起こっているのか。
富山県国際伝統医学センターの上馬塲(うえばば)和夫次長がロボットを作って研究した結果、オイルが額のツボを刺激して、脳の前頭葉の働きを活性化させてリラックス効果をもたらしていることがわかった。
「シローダーラー体験後の被験者の脳波、血圧、心拍数、免疫機能、手足の皮膚温、心理などを検査した結果、施術によって心拍数が減少し、心や体を緊張させる交感神経の働きが抑制されていました。心がリラックスするほど免疫力が上昇し、足の温度も上がっていました」と上馬場次長は話す。(医療ライター・福原 麻希)
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◆ 健康・統合医療(24) ◆
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インドの伝統医学「アーユルヴェーダ」は、クローン病の患者が悩まされる「痔ろう」の治療(「クーシャラ・スートラ」と呼ばれる)に応用されている。簡単で、後遺症や痛みが少ない。
「木綿糸にウコンなどの薬草を塗りつけ、痔ろうの孔(あな)に通して結んでおく。毎週1回この治療をくり返すと、薬草の殺菌作用や創傷治癒作用で自然に穴がふさがっていきます」と国際伝統医学センター(富山県)の上馬塲(うえばば)和夫次長。
ハタイ・クリニック(東京都世田谷区)の幡井勉院長は「アトピー性皮膚炎」にパンチャカルマ(アーユルヴェーダの浄化療法)の1つ、瀉血療法をしたところ、26~30回で完治したと言う。
「毎週、血液を20cc抜いて造血を促す方法。乾癬(赤い皮疹ができて、フケのようなものがパラパラ落ちる病気)も体質によっては消失した」(幡井院長)
抗うつ剤を飲んでいる患者にもシローダーラー療法が改善効果を示したそうだ。頭部全体に39度前後のオイルを垂らすとストレスが消失、心を癒やす効果をもたらすことが科学的に証明されている。(医療ライター・福原 麻希)
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