F.E.R.C Research Report - File No.06

人はなぜ禁煙に失敗するのか?

2001/02/18  報告 報告者:山名 研一、桜田 直美、小杉 良子、香取 恵、飯島 真智子


日本の喫煙者は約3000万人いるといわれており、タバコの発ガン性や健康上の理由から、禁煙を考えた事がある人はそのうち6割にも上るという。その中で、初めての禁煙で成功した人はわずか1割で、残りの9割の人は禁煙に失敗しているという。

なぜ禁煙に失敗してしまうのか?禁煙に成功する方法はあるのだろうか?

慶応義塾大学医学部・小林紘一教授によると、タバコに含まれる「ニコチン」と呼ばれる物質が、喫煙をやめられなくなる「依存作用」を引き起こすという。ニコチンは、タバコの葉に含まれる植物毒の一種で、煙と共に気管支を通り、肺の細胞に吸い込まれる。このニコチンは、脳内で情報を伝える神経伝達物質、アセチルコリンの分子構造とよく似ている。そのため、この神経伝達物質を受け取る「受容体」が、ニコチンをアセチルコリンの代わりに結合させてしまう。通常、アセチルコリンは分解酵素により分解されるが、ニコチンは分解されず、長時間受容体に居座ってしまう。その結果、ニコチンはアセチルコリンよりはるかに多い刺激を受容体に与えてしまうという。そして、長期に渡って喫煙を続けていると、刺激を多く与えることの出来るニコチンが必要になってしまうのだ。小林教授によると、ニコチンによる刺激には、「目が覚める」「集中力が増す」といった覚醒作用や、「気分が変わる」「満足感を覚える」といった抑制作用がある。そしてニコチンはタバコを吸って僅か7秒というスピードで脳に到達し、これらの効果をもたらすことが、やめられない原因の一つになっているという。

では一体どうすれば、禁煙に成功するのか?
東京衛生病院で禁煙の指導を行っている林高春名誉院長の元、禁煙を成功させる方法を検証してみた。

<禁煙第1の壁>
禁煙初日は体の中のニコチンが減ってくるため、イライラしたり、強い喫煙欲求が起こるという。しかし、喫煙欲求は長くても3分で消えてしまうので、熱めのシャワーを浴びたり、ミント系のガムを噛む、冷たい水を飲む、軽めの運動をする、といった、他の刺激により気分をそらす事が有効という。また、緊張したり、イライラする時は、ゆっくり食事をとったり、温かいお茶を少しずつ飲んだり、大きく深呼吸する事が有効である。禁煙2日目、血中ニコチン濃度が急激に下がるため、初日よりも強い喫煙欲求が生じるという。この衝動は禁煙を始めてから3日以内にピークを迎え、5日程でほとんどの人がその衝動が消えるという。3日目になると、味や臭いに対する感覚が正常に戻り、食欲や味覚に大きな変化が見られる。そして胃腸粘膜の血液量が増えて、本来の消化吸収力を取り戻すという。

<禁煙第2の壁>
禁煙後1〜2週間後は「安心期」と呼ばれるが、気が緩んで油断しやすくなり、この時期に禁煙に失敗してしまう人は28%と、割合では最も多いという。脳の中で、ニコチンと結合していたアセチルコリン受容体が、アセチルコリンの刺激だけを求めるようになるには、大体2〜3週間かかる。そのため、まだ脳の中ではニコチンを欲しているという。食事の摂り過ぎは、覚醒度を低下させて喫煙欲求を起こしやすいので、食事は軽めにする。また睡眠をしっかり取り、酒は控えるようにすると良いという。

<禁煙第3の壁>
禁煙後1ヶ月が過ぎると、体がニコチンを求めなくなるが、喫煙していた時の行動記憶が残っており、何かのきっかけでふと吸いたくなる時があるという。この行動記憶を克服するには、例えば、毎日の移動手段を換えてみたり、食後早めに席を立つことや、仕事のストレスを解消する事が有効であるという。林医師によると、禁煙を決めたら新しい人間に生まれ変わる気持ちで、生活パターンに変化を持たせると効果があるという。また、食後に歯磨きをする、定期的に運動する、休日に没頭できる趣味を持つ事がよいという。喫煙の行動記憶が消えるまでは、最低でも3ヶ月は必要といわれるが、最初の1ヶ月を乗り切ると成功率はグンと高くなる。

禁煙は一度失敗したとしても諦めず、自分がなぜ禁煙に失敗したかを認識した上で、何度も挑戦してみる事が大事である。禁煙によって現れる人体への影響や乗り越えるべき壁の存在をきちんと認識することで、タバコをやめることは可能だという。


3分でタバコやめられる動画